エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
突き放すような言い方に傷ついて、私はソファに手を突き、身を乗り出した。


「……でも」


胸をよぎった微かな疑問が、口を突いて出てくる。


「今のままで、純平さんは十分すごい人です。なのに、なんのために、もっと上に行きたいんですか」


ためらいながら、つっかえつっかえ質問したら、彼の喉仏がゴクッと上下した。
私が黙ると、沈黙が走る。
そのせいで、立ち入ったことを聞いてしまったと気付く。


「ご、ごめんなさい。そうですよね。仕事するからには、当たり前の向上心で……」

「歩」


私の言葉を、純平さんが阻んだ。
その薄い唇が私の名前を紡いだことにドキッとしている間に、ソファに突いた腕を強く引っ張られ……。


「きゃっ……」


バランスを崩し、短く声をあげる私の頭に、彼がもう片方の腕を回した。
下から抱き寄せる力に抗えず、


「っ、んっ……」


ほとんどぶつかるみたいに、唇が重なった。
先週、嫌ってほど刻まれた、熱い温もりが全身に蘇る。
この体温の中毒的な甘さを肌が覚えているから、私の心臓はドクッと跳ね上がった。


慌てて身体を起こそうとしても、彼は酔っ払っているわりに力強く、私がもがけばもがくほど、その腕に力がこもる。
< 83 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop