身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿は呆然と菖蒲を見つめ返す。
もちろん、椿は菖蒲を敬ってきたつもりだ。美しくて頭もいい自慢の姉だった。
しかし、菖蒲からはそう見えていなかったのか、あるいは感謝の気持ちが表現しきれていなかったのか――。
「お姉ちゃんは、ただ私たちを困らせたかったから姿を消したの……?」
「そうよ! いなくなって私のありがたみがよくわかったでしょう!? 店だって閑古鳥が鳴いていたんじゃない? お客様の多くは私に接客してもらいたくて来てるんだもの!」
確かに、常連客はみな『菖蒲ちゃんはどうしたの?』と尋ねてきた。
菖蒲に夢中になっている男性客は、本人がいないと知ると「また今度」と着物を買わずに帰ってしまった。
だが、菖蒲の代わりに椿に見立てを任せてくれた客もいた。
今度からは椿ちゃんにお願いするねと言ってくれた客もいないわけではない。しかし――。
「自分を神様とでも思っているのか。バカを言うな。お前の穴は、きちんと椿が埋めてくれている。経営は上向きだ」
誇張された表現に慌てて母が止めに入る。
「お、お父さん……それは……」
言いすぎだ。椿も母の言いたいことを理解し表情を険しくした。
菖蒲がいた頃よりも明らかに売り上げは落ちてきている。
ここ数カ月は仁がたくさん着物を買ってくれたから、赤字を補填できているけれど、仁ひとりに依存した状態で『経営が上向きだ』と言ってはいけない。
もちろん、椿は菖蒲を敬ってきたつもりだ。美しくて頭もいい自慢の姉だった。
しかし、菖蒲からはそう見えていなかったのか、あるいは感謝の気持ちが表現しきれていなかったのか――。
「お姉ちゃんは、ただ私たちを困らせたかったから姿を消したの……?」
「そうよ! いなくなって私のありがたみがよくわかったでしょう!? 店だって閑古鳥が鳴いていたんじゃない? お客様の多くは私に接客してもらいたくて来てるんだもの!」
確かに、常連客はみな『菖蒲ちゃんはどうしたの?』と尋ねてきた。
菖蒲に夢中になっている男性客は、本人がいないと知ると「また今度」と着物を買わずに帰ってしまった。
だが、菖蒲の代わりに椿に見立てを任せてくれた客もいた。
今度からは椿ちゃんにお願いするねと言ってくれた客もいないわけではない。しかし――。
「自分を神様とでも思っているのか。バカを言うな。お前の穴は、きちんと椿が埋めてくれている。経営は上向きだ」
誇張された表現に慌てて母が止めに入る。
「お、お父さん……それは……」
言いすぎだ。椿も母の言いたいことを理解し表情を険しくした。
菖蒲がいた頃よりも明らかに売り上げは落ちてきている。
ここ数カ月は仁がたくさん着物を買ってくれたから、赤字を補填できているけれど、仁ひとりに依存した状態で『経営が上向きだ』と言ってはいけない。