身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
少なくとも菖蒲が働いていた数年間は、菖蒲の努力が店を維持していた。

それを父はわかっているのかいないのか――いや、もしかしたら本当に、表面的な数字しか見ていないのかもしれない。

だからこそみなせ屋は経営危機に陥り、菖蒲は反旗を翻したのだ。

取り乱していた菖蒲が、今度は黙り込んだ。父の説得をあきらめたのか、あるいは怒りが頂点に達したのか――。

「椿。あんたはもういいわよ」

突然、菖蒲に冷ややかな声を浴びせられ、椿は後者だと悟る。

「あんた、着物のデザインとか織りとか染めとか、そういうのがやりたいんでしょ? みなせ屋は私に任せて、工房でもどこでも就職すればいいわ」

「え……」

突然突き放されて、椿は愕然と言葉を失う。父が「なにを言っている」と声を低くして反論した。

「椿は京蕗家に嫁ぐと決まっている。そして、いずれみなせ屋の女将になるんだ。誰のおかげで今、援助がもらえていると――」

「この五年間、援助をもらえていたのは私のおかげよ。それを忘れないで。京蕗家には予定通り私が嫁ぐわ」

「バカなことを。お前の横暴を京蕗さんが許してくださると思っているのか」

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