身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
顔合わせの後は仁の自宅へ。妊娠中、とくにつわりが落ち着くまでは親元にいた方がいいだろうと、ふたりはまだ同居をしていない。

椿の場合、平日はみなせ屋に通勤することを考えると、実家の方が格段に楽なのだ。

最近はつわりも落ち着き、週末は仁の自宅で過ごすようになり、週末婚のような生活をしている。

「一緒に暮らしたくもあるが、通勤に片道二十分か……」

仁と椿は隣り合ってソファに座る。こういうときはだいたい、仁が椿の肩を抱き寄せて、仁の胸に頭を置くような体勢になる。

「ええと……三十分くらいかかると思いますよ、乗り換えがありますから」

「車で送り迎えさせるに決まっているだろう。そのお腹で満員電車なんて論外だ」

軽く常識を覆され、そういえば自分の夫は財界の若き帝王だなんて呼ばれていたんだっけと思い起こす。

ここでもったいない、電車で大丈夫と言ったところで無駄だろう。椿は悩んだ末に口を噤んだ。経済を回してもらうのも大切だ。

「俺は平日、早く帰ってくるのが難しい。今の椿をひとり家で待たせておくくらいなら、まだ家族と一緒にいてもらった方が安心だろう」

仁が納得したような、それでいて悲しそうな顔で言う。

嘆くのも当然だ。このまま椿が実家暮らしを続けていれば、一緒に暮らすのは出産後、つまり三人家族になった後だ。

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