身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「椿、一旦落ち着こう」

聞き手を忘れ、徐々に早口になってきた椿を、仁は頭を撫でて落ち着かせる。

椿は我に返り、慌てて口を押さえた。

「ご、ごめんなさい……!」

「椿はいつも、熱が入ると止まらないな」

仁は穏やかな顔でクスクスと笑っている。椿は恥ずかしいながらも、そうやって包み込んでくれる仁の優しさが大好きだ。

「覚えているか? 初めて会ったときも君はそうだった」

「初めて……ですか?」

初めて会ったのは五年以上も前、椿が二十歳の学生だった頃だ。

菖蒲と仁がみなせ屋で着物を選んでいるところに出くわし、姉から婚約者だと紹介された。正直、どんな会話をしたかまでは覚えていない。

「あのとき、椿はお召の歴史と織り方について語っていた」

それを聞いて、仁がお召を仕立てるというから興奮して喋り倒してしまったことを思い出した。

「……すみません……」

あのときも仁は温かい目で椿の話を聞いてくれた気がする。

「学校の課題を見せてもらったこともあったな。朝顔の染め物」

「そうでしたね」

「好きなことに真っ直ぐな椿が、とても美しく綺麗に見えた」

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