身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
思いもよらぬことを言われて、椿はぱちぱちと目を瞬く。仁は椿を覗き込んで顔を近づけた。

「あの頃から椿に惹かれていた。自分にはないものを持っていると、憧れに似た気持ちを抱いていたんだ」

「そう……なんですか?」

それではまるで椿と同じだ。姉の婚約者と知りながら密かな憧れを抱いていた椿と。無意識のうちにふたりは惹かれ合っていたのだろうか。

実感の伴わない椿にたたみかけるように仁は唇を近づける。

「婚約者が君のような人ならいいのにと考えたこともあった」

「そんなことっ……」

嘘でしょうと言いかけたが、真摯な眼差しを目の当たりにしてなにも言えなくなってしまった。

『今も昔も、愛しているのは椿だけだが』――そんな仁の言葉を思い出し、まさか真実だったのだろうかと今さらになって焦り出す。

「やっと椿を手に入れた。君にとっては数カ月の出来事かもしれないが、俺には五年分の想いが募っているんだ。存分に愛を注がせてくれ」

「私も――……っっ!?」

同じです、そう言おうとした椿だったが、仁に唇を塞がれてなにも発せられなくなった。

仕方がない。蕩けた瞳から察してくれるだろうと、椿はまどろっこしいことを考えるのをやめ、うっとりと愛情を受け止める。

「椿を実家まで送り届けるときに、君をしばらくうちに置きたいとご両親にお願いしよう」

< 240 / 258 >

この作品をシェア

pagetop