身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~


自分の体を抱くように丸まって眠っていた椿は、振動で目を覚ました。

「う……ん……」

ゆっくりと目を開けると、自宅の布団とは違う真っ白いシーツにふかふかの枕。

視線を上げるとそこには、裸のまま上半身を起き上がらせた仁がいて、ぼうっとしていた意識が一瞬で覚醒した。

「っ、っ~!!」

声にならない声をあげて毛布を胸元に手繰り寄せる。

仁は冷ややかに椿を見つめ「起こしたか。すまない」と全然すまなそうではない声で一応謝った。

仁は椿から視線を外すと、ベッドから降りて夕べ脱ぎ捨てた服を拾い着直す。

窓からは朝日が差し込んでいる。慌ててベッドサイドにある時計を見ると、時刻はもう七時を過ぎていた。

「っ、七時!?」

今日は平日、椿はみなせ屋の仕事がある。

朝一で上客の予約が入っていて、両親はそちらにかかりきりになるため、椿とパートの従業員でその日来店した客を接客しなければならない。

「た、大変……!」

昨晩はあくまで謝罪に来ただけ。まさか朝まで居座ることになろうとは夢にも思わなかった。

早く帰って開店の準備をしなければと、椿は毛布をかき抱いたままベッドを降りる。しかし――。

「あっ」

膝に力が入らず、ベッドから落ちそうになる。すかさず仁の腕が伸びてきて、椿の体を抱き留めた。
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