身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿は今度こそ気をつけてベッドを降りると、昨晩脱ぎ捨てた着物を自身に着付け、髪を結い上げた。

メイク道具は最低限しか持ってきていないので、リップと眉だけ書き直す。

「待ってください!」

部屋を出るなり椿は叫ぶが、てっきりリビングにいると思っていた仁が見当たらない。

間を置かず廊下側のドアが開く。

上半身裸になった仁がタオルで髪を拭きながら入ってきたので、椿はパニックになり「きゃあっ」と悲鳴を上げた。

「なんだ今さら、大袈裟だな」

「その……急に裸で出てくるなんて……」

「夕べ、なにをしたかを忘れたのか? 気持ちよさそうにしがみついてきたじゃないか」

からかうような言い方をされ、椿は途端に恥ずかしくなり顔を伏せる。

その事実に間違いはないけれど、今になって、しかも朝日のもとで蒸し返さないでほしいものだ。

「わ、私も、ここを出ます。店が大変だと思うので」

目を逸らしながら伝えると、仁はしばらく椿を眺めていたが「好きにしろ」と言ってリビングを出ていってしまった。

とにかく喉がカラカラなので水をもらおうとキッチンに向かう。
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