身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
食器棚には高級そうなグラスがたくさん並んでおり、椿はしばらく悩んでいた。一番シンプルで壊れにくそうなものを選んで拝借する。

水道を捻っていると、ほどなくして仁が戻ってきた。

おそらくフルオーダーであろう三つ揃えの立派なスーツを纏っている。

重厚なダークグレーが気品に満ちていて麗しく、思わずぽうっと見惚れてしまった。

「……ああ。水ならミネラルウォーターがある」

仁はキッチンにやってきて、冷蔵庫からライム入りのミネラルウォーターのボトルを取り出すと、椿のグラスに開けた。

ついでのように野菜室を開き、手近にあった大粒のマスカットをひと粒もぎとると、サッと水で洗って椿の口に放り込む。

「むぐっ――」

「糖分を取っておけ。そんなに細い体をして倒れられては困る」

椿は口を押さえながら瑞々しいマスカットをしゃくしゃくと咀嚼し、ミネラルウォーターで喉の奥へ流し込んだ。

グラスを洗おうとすると、仁が「いい。来い」と指示してきたので、慌てて彼の後についていく。

向かった先は地下駐車場。椿は電車で帰りますと主張したが、仁は問答無用で椿を車の助手席に乗せた。

おそらく自身が所有する車なのだろう、スポーティーなフォルムをした黒い高級車だ。
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