身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「あの、私、駅まででかまいませんので――」

「脚が痛むんじゃなかったのか」

どうやら椿の体を酷使した自覚はあるらしく、気がかりなのか、みなせ屋まで送り届けてくれるようだ。

結局、仁が優しいのか冷たいのかいまいち掴み切れない。夕べ自宅を訪ねたときはあれほど冷ややかな態度を取ったくせに、ベッドの中では甘やかし、今では体を気遣ってくれている。

椿は運転する仁をバレないようにちらちらと覗き込み様子をうかがった。

何度見ても見慣れることのない、とんでもない美丈夫だ。こんな人を虜にした姉は本当にすごいと感服する。

――私と寝てくれたってことは、私を姉の代わりにすることで合意してくれたってことでいいのよね……?

半信半疑だが尋ねることもできないまま、椿は大人しく助手席に座っていた。

仁はみなせ屋の前に車をつけると、椿を降ろし、ドアウィンドウを開けて短く言い放つ。

「ご両親によろしく伝えてくれ。のちほど挨拶にうかがうと」

仁は伝言だけ残すと、返事を待たずに車を走らせた。

椿は呆然と車を見送った後、おずおずとみなせ屋の門をくぐる。
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