身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「おはようございます。遅くなってすみませんでした」

八時半。店に入ると、パートの従業員と母が清掃などの開店準備をしていた。

普段、女将である母は自ら清掃などしないのだが、不在だった椿の代わりをしてくれているようだ。椿の姿を見つけると、血相を変えて飛んできた。

「椿、大丈夫なの!? 具合が悪いから休ませるって、京蕗さんからお電話いただいたけれど……」

仁は母に体調不良と説明していたらしい。確かに『夜更けまであんなことやこんなことをしていて娘さんはボロボロです』とは言えない。

椿が苦笑いを浮かべながら「大丈夫」と答えると、母は安堵の表情で「お疲れ様」と労いの言葉をくれた。

もちろん深い意味などないのだろうが、いろんな意味でお疲れだった椿は妙に恥ずかしくなる。

「謝罪のこと、なんだけど……」

切り出すと、母はパッと表情を明るくして、椿の両手を握った。

「京蕗さんから聞いているわ、前向きに検討してくださるとのことでしょう!? よく頑張ったわね」

え、と椿は目を見開く。どうやら謝罪は成功したことになっているらしい。

声を聞きつけたのか、二階から父が下りてきて「お帰り」と上機嫌で椿のもとにやってきた。
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