身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「今朝もお話をさせていただきましたが、電話でお伝えするような内容でもないと思いましたので、あらためて足を運んだ次第です。水無瀬社長はいらっしゃいますか?」

「ええ、少々お待ちください。椿、京蕗さんを応接室へご案内して」

父はひと足先に仕事を終え、自宅に帰ってしまっていた。

とはいえ、自宅までは徒歩一分の距離、急いで来てもらえばそこまでお待たせすることはないだろう。

椿は「どうぞこちらへ」と仁を応接室へ招いた。

一階の奥にある応接室は、接客に使う畳敷きの間とは違い絨毯が敷かれ、使い勝手を重視した和モダンの調度品が配置されている。

中央にガラス板のローテーブル。その周りにひとりがけの革ソファが五つ置かれている。

「……それで。体は本当に大丈夫なのか」

ふたりきりになったところで、仁は今朝のような低い声で尋ねてきた。

「少し筋肉痛が残っているくらいで、心配いただくようなことはなにも」

「初めてだったんだろう。乱雑に扱ってすまなかった」

椿はぎょっと目を剥く。今さら謝罪とはどういうことか。

――しかも、初めてとバレているのはなぜ?

椿のテクニックがあまりに稚拙すぎたのか、仁の経験が豊富過ぎるのか――きっと両方に違いない。
< 35 / 258 >

この作品をシェア

pagetop