身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
困惑していると、仁が申し訳なさそうな顔で目を逸らした。

「……まさか本当に脱ぐとはな」

え、と椿は口を開ける。仁は椿を抱くつもりで寝室に案内したわけではなかったのだろうか。

「もしかして、はったりだったのですか?」

「怒りを感じていたのは確かだ。姉の代わりに妹を差し出す水無瀬社長の無神経さにも、軽々しく服を脱ぐ君にも」

仁は苛立った様子でソファに座り、腕を組んだ。

椿としては覚悟を決めての行動だったが、仁からは軽々しく見えていたようだ。

「すみませんでした……」とか細い声で謝罪する。

「援助をしてくれる男が見つかるまで、君は男の前で服を脱ぎ続けるつもりだったのか?」

「そ、そんなつもりはありません!」

椿は跡取りを産まなければという責任感に囚われていただけで、色仕掛けをしたつもりはない。

それに……と考えを巡らせ椿は閉口する。

仁ではなく、他の男性が相手だったなら脱げなかったかもしれない。

仁だからこそ、身を任せてもいいと思えた――そんなことに思い至りハッとする。

伏せって沈黙している椿を見かねて、仁が口を開いた。

「責任は取るつもりだ。もちろん、妻となるからには丁重に扱う」

どうやら仁は本気で椿を婚約者にするつもりらしい。
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