身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿は内心、正気なの?と青ざめていたが、その実、安堵もしていた。

それはみなせ屋の娘としての責任を果たせたから。父親の期待に応えられたからだ。

いや、それ以上に、仁に婚約者として認めてもらえたことが嬉しかったのかもしれない。

「君は本当にそれでいいのか? 俺は姉の元婚約者で、セックスも乱暴で――」

「あ、あれは同意の上でしたし……そんな風には思っていません……」

フォローしたわけではなく、椿は本気で乱暴だとは思っていなかった。

脱がされるまでのくだりに難はあったが、ことに及んでいるときはとても優しく丁寧に抱いてくれた。

今も体を気遣ってくれているところを見ると、そこに人としての尊厳はあったのだと椿は思う。

不思議とあの出来事は、嫌な記憶にはなっていない。むしろ、甘美なひとときであり、思い出すと赤面してしまうくらいだ。

様々な確執があり京蕗家長男としての立場もあるから、仁は冷徹な態度を取っているけれど、本当は優しい人なのではないか――そう期待してしまうのは都合がよすぎるだろうか。

しばらくすると母がお茶を運んできた。

「すぐに来ますので、どうかもうしばらくお待ちください」
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