身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
そんなやりとりを交わしている間に父が飛んできて、部屋に入るなりぺこぺこと頭を下げた。

「京蕗さん! このたびはご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした」

仁の態度は冷静だ。それでいて凍り付くような威圧感を放っている。父よりずっと若いにもかかわらず、貫禄は劣るどころか父以上だ。

「菖蒲さんとのことを幻滅した以上に、私は水無瀬社長の対応についても疑念を感じました。菖蒲さんは戻ってくる気がないのだと、もっと早い段階で打ち明けていただきたかった。私が聞きたかったのは椿さんの謝罪ではなく、社長である貴方がどう考えているかだ」

父は再び「申し訳ございませんでした」と深々と頭を下げる。

仁に促され、父は仁の正面に腰掛けた。

部屋の端に立っていた椿だが、仁に「こちらに」と手招かれ、隣に腰掛ける。

「――しかし、いつまでも悲観していたところで現状は変わらない。社長のご提案、呑ませていただこうと思います」

父が許されたかのように目を輝かせる。

「では、式の予定はこのままで、椿と――」

「いえ。式は中止に。花嫁を挿げ替えるなんて周囲に示しがつかない」

仁は鋭く言い放つ。夏には式も予定しており、詳細が一部関係者に伝わっている中、花嫁が変わるなどという不面目な連絡をどうしてできようか。ならばいっそ中止にした方がマシだ。
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