身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「これまでのお着物は深い藍や茶など、重厚なお色みが多かったですよね」

「それは菖蒲の趣味だ。君は自由に選んでくれていい」

菖蒲と着物を選んでいたときも、すべてお任せだったらしい。

そこまで着物に詳しくないと、以前、仁本人も口にしていた。

一見無関心なようにも見えるが、仁は日本古来の文化は大事にしていきたいと考えているそうで、伝統工芸を守るための支援活動をしている。

需要の減少や後継者不足、時代に添った経営や広報活動ができず、危機に瀕している職人、工房はたくさんある。

そういった人々をバックアップし淘汰されないよう守っていく、そして現代社会に合ったビジネスプランを提案する、そんなコンサルティング企業を立ち上げ運営しているそうだ。

その投資を仁は趣味の範疇だと言うが、実際はとんでもない額で、趣味と言えるレベルを大きく逸脱している。

そんな経緯もあり、自身も公の場では積極的に着物を着て、和装文化の普及に貢献してくれている。

だが、見立てをプロに一任するところを見ると、それは使命感であって、楽しんで着ているわけではないのだろう。

椿としては、せっかく興味を持ってくれたのだから、仁自身にも楽しんでもらいたい。
< 44 / 258 >

この作品をシェア

pagetop