身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
これまで仁は、教科書通りの着方をしてきたに違いない。

しかし、和装もファッションの一部であり、もっと自由に、遊び心を持って着てもいいのだ。

そう伝えることが、呉服屋としての務めであり、和装文化を学んだ椿の使命でもある。

「ではご提案させていただきますね。好みでなければおっしゃってください」

まずはこれまでの着物とそれほど色みの遠くない煤竹色――赤みの入った深い茶色のことだ――の反物を合わせる。

「いかがです?」

「ああ。いいんじゃないか?」

しかし、言葉とは裏腹に、仁のリアクションはあまりいいとは言えない。

もしかすると、これまで選んでいた着物からガラリと印象を変えたいのかもしれない。

ならばと椿が取り出したのは、菖蒲はあまり選ばないであろう、白と桜鼠で縞柄に織り上げられた結城紬の反物。桜鼠とは赤味のある優しい灰色、ピンクベージュに近い。

癖が強く人を選ぶ生地だが、スタイルがよく顔立ちも涼やかな仁なら、粋に着こなせると確信した。

「仁さんでしたら明るい色のお着物もよく似合いますよ。きっと気高く涼やかな印象になるでしょう」

仁の胸に反物を当てた椿は、やっぱり素敵と嬉しくなる。

仁はわずかに興味をそそられたようで、目元がぴくりと動いた。
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