身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「街着としてなら、モダンな角帯を合わせてみてもいいかもしれません。仁さんなら嫌みなく着こなせると思いますよ」

手に取ったのは現代アートのような角帯。存在感の強い黒に、亜麻色のラインが大胆に描かれている。

彼ならばこのくらい前衛的なアイテムを使っても説得力のある着こなしになるだろう。

「……おもしろいと思う。これまでになかった組み合わせだ」

仁も気に入ってくれたようで、椿の胸が熱くなる。

そこへ階段を上ってくる足音が聞こえた。

どうやら父が様子を見に来たようで「お好みの品はございましたか?」と仁に声をかける。

「提案をしてもらっているところです」

仁の返答に笑顔で応える父だが、椿が手にしている角帯を見て血相を変えた。

「椿、そんなものを勧めているのか!?」

父は昔ながらの人で、伝統から外れたものを好まない。

このモダンな角帯も、懇意にしている工房から「跡取りがこだわり抜いて制作した一点ものですのでぜひ」と頼まれたから仕方なく置いたもので、作品自体を認めているわけではないのだ。

椿は反論しようとしたが、先に声を発したのは仁の方だ。

「『そんなもの』とは? 勧められないようなものを店に置いているのですか?」
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