身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「私も型にはまるのは嫌いです。着物については素人ですが、椿さんのチョイスがユニークであることはわかる」

仁の言葉に、椿は慌てて言い添える。

「ユニークと言えば、その角帯は一点ものです!」

ユニークとは和製英語では『おもしろい』というニュアンスを持っているが、英語における正確な意味は『唯一無二』。

仁は口の端をニヤリと跳ね上げた。

「格式だけを主張したいのであれば、イタリアでスーツをフルオーダーすれば充分だ。ですが水無瀬社長、私は彼女とお洒落を楽しんでいるのです」

父は今度こそ黙り込んで、高額な帯を棚に戻した。

表情を引きつらせながら「ごゆっくり」とだけ告げて階段を下りていく。

父の足音が聞こえなくなるまで待った後、椿は「あの」と仁に声をかけた。

「ありがとうございました。口添えしてくださって」

「四年も専門学校で学んでいたのだから、ファッションセンスは伊達じゃないはずだろう?」

椿自身のセンスを信じてくれていたのだと知って、嬉しさが込み上げてくる。

「ところで椿、君は英語ができるのか?」

先ほど『ユニーク』の言葉の意味を知っていたからだろうか。和製英語の解釈で誤認している人も多い。
< 48 / 258 >

この作品をシェア

pagetop