身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「できるというほどでは。でも、お客様の中には外国人観光客もいらっしゃいますから、簡単に説明できる程度には勉強しました」

「なるほど。勤勉なことだ」

仁は満足したように笑みを浮かべる。

思っていた以上に仁は椿のことを信じてくれているし、褒めてもくれる。

あの謝罪の夜の恐ろしかった彼が嘘のようで、無意識のうちに仁の人柄に期待してしまう。

――やっぱり本当は、優しい人なのかな……? 

『椿ちゃん』と優しく声をかけてくれた仁はもう存在しないけれど、呼び捨てられるたびに仁がただの憧れの偶像ではなく、自分の隣を歩いてくれる人なのだと認識する。

それは悪いことではない気がした。



結局仁は、椿の選ぶフルコーディネートを五セット購入した。

店としては最高級帯を売りつけられなくとも十分な黒字だ。

「椿。着物が仕上がったら、それを着て食事に行こう」

唐突に食事に誘われ、椿は驚きから返事をするタイミングを逸した。

そういえば、交際をするつもりだと仁は言っていた。デートを重ねて、少しずつ関係を深めてくれようとしているのだろうか。

いや、むしろ花嫁試験と言うべきか。自分に相応しい女性かどうか、見極めようとしているのかもしれない。

気合いを入れていかなければと椿は気を引き締める。
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