身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「ふたりきりでタイミングも何もあるか。料理くらい好きなときに好きなだけ注文すればいい。それくらいのワガママも許容できないような小さな男に見えているのか?」

椿はどちらかというと、夕食前に甘味をもりもり食べる女は引かれるのではないかと心配していたのだが。なるほど、そういう考え方もある。

「まぁ、俺からの『あーん』を見越してあえて頼まなかったというのなら褒めてやる」

それだけは絶対にないと、椿は首をぶんぶん横に振る。

「……この後、食べにいくわけですから、お腹がいっぱいになってしまうと――」

「君の中には、ひと口食べて残すという発想はないんだな」

思わぬことを尋ねられ、椿はぎょっと目を見張った。

ないない、そんなもったいないこと絶対にしない!と心の中で全否定する。

もしかして、仁は味見だけしてごちそうさまをする人なのだろうか。あんみつも残そうとしている?

「あの……残すんでしたら、そのあんみつ、私が食べますから」

すると、仁は今度こそ声をあげて笑った。破顔した仁に、椿はぎょっと目を丸くする。

「安心しろ。残すつもりはないよ」

どうやらひと口食べて残す人というのは仁のことではないらしい。では誰の話だったのだろうと考えて、ふと思い立つ人物がいた。
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