身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「もしかして、姉のことですか?」

菖蒲のことを口に出した途端、仁の表情はひくりと強張った。すぐにため息をついて、億劫げに口を開く。

「菖蒲はよく食事を残していたな。菖蒲だけでなく、俺の周りにはそういうタイプの人間の方が多い」

「お金持ちあるあるなのでしょうか……」

菖蒲はお金持ちだからというより、カロリーを気にして残すことが多かった。

味が自分の好みと違っていた場合なんかに、おいしくないものを食べて太るなんて許せないと言って。残りはだいたい椿がおいしくいただいていたのだが。

「うちは母親が『出されたものは食べろ』と躾ける人だったから……まぁ、人によるだろう」

「そうですか。よかった」

「なぜ?」

「残すなんて、お料理を作ってくれた方に申し訳ありませんから。食材ももったいないですし」

椿は仁が差し出してきた生クリームの載ったほうじ茶プリンをぱくりと頬張る。

仁も納得してくれたようで、小さく微笑んだ。

「ほら、次。口を開けて」

「んむっ、ペースが速いです」

「プリンなんて一瞬で溶けるだろ」

んん、と喉を鳴らして抵抗を示しながらも、今、仁が口をつけたばかりのスプーンでプリンをいただく。
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