身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
仁は自分がひと口食べるごとになんてことなく分けてくれるが、椿はそのたびにドキドキしてしまう。

――間接キスとか、考えないのかな?

体を重ねておいて今さらではあるが、唇へのキスはまだなので意識してしまう。

「あの、姉ともこういう風に――」

口にしたところで、それは愚問だと気づく。

「――いえ、何でもありません」

慌てて質問を取り下げるも、仁は引っかかったようでぴくりと眉を跳ね上げた。

「菖蒲のことをよく尋ねてくるな。気になるのか?」

「ええと……そういうわけでは」

実際、すごく気にしている椿だが、自分の一挙一動をいちいち姉と比べているとは言えない。

すると、仁はあきらめたような顔で小さくため息をついた。

「菖蒲とは少なくとも君が羨むようなデートはしなかった」

あまりに冷たい表情で言い切られ、椿は困惑する。

そんなはずはない、仁と菖蒲はいつだって仲良く出かけていた。

これは裏切った菖蒲に対する想いの裏返しなのだろうか。

いずれにせよ、姉の話題はもう出さない方がいいだろうと椿は悟る。別れた元カノの話など、気分が悪くなって当然だ。

「……すみません」
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