身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「やはり私では、あなたの妻にはなれない……?」

椿を認めるような素振りも、結婚に納得しているという言葉も、すべて嘘で。

家のために仕方がなく椿の相手をするも、心の奥底では拒んでいたのかもしれない。

「そうじゃない。椿、落ち着いて聞いてくれ。俺は――」

そのとき、ブブッと短いバイブ音が響いてきた。

途切れたかと思うと、すぐにまた音が鳴る。仁はシャツの胸ポケットへ手を伸ばし、携帯端末を引っ張り出してディスプレイを睨んだ。

難しい顔をした後、再び胸ポケットへとしまう。

「……出なくても?」

「かまわない。椿、俺は――」

しかし、バイブ音は途切れることなく続いている。

観念した仁が端末を耳にあて「今取り込み中だ。後にしてくれ」と短く告げて終話した。

だが、よっぽど急ぎの用件なのか、間を開けることなく再び端末が鳴動し始める。

「出てください」

「無視してかまわない」

「気が散って話どころじゃありません」

椿に迷惑そうな顔をされ、仁は渋々端末を手に取った。
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