身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「……すまない。ここにいてくれ。すぐに戻ってくる」

仁は椿に背中を向けると、受話口に向かって「手短に頼む」と切り出してリビングの外へ出ていく。

リビングがシンと静まり返り、ひとりになった椿は恐ろしいくらい冷静になった。

これまでの自分の行いを振り返り、いったいなにをしていたのだろうと自己嫌悪に陥る。

慰められたいがために仁に抱いてと頼むなんて、最低だ。身ごもることで仁を繋ぎ止めようとするなんて、もっと最低。

これ以上みっともない姿を晒したくはない。

椿は慌てて解いた帯を結び直すと、仁にはバレないようにそっとリビングを出た。

仁はリビングの脇にあるクローゼットルームで誰かと通話をしているようだ。仕事で問題でも起きたのか、深刻な声が聞こえてくる。

椿は足音を消して部屋の前を通りすぎ、こっそりと玄関を出た。


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