身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
*** 


初めて椿と体を重ねたあの夜の出来事を、仁は深い罪の意識とともに思い出す。

震えながら姉の身代わりになると申し出た椿に、憐みを抱き同情しながらも、立場上優しく接することはできなかった。

椿を傷つけ、泣かせる作業は、自らの胸を抉る行為に似ていた。椿が苦しみに耐え毅然とした表情を見せるたびに、仁の胸に罪悪感が湧き上がる。

――『娘を好きにしてもらってかまわない』――

人権を無視したおぞましい伝言に、全身が総毛立つほどの怒りを感じたことを覚えている。

夢を追いかけて輝いていた、純粋で勤勉な女の子。それが今や父親の道具になり果てようとしている。

相手が自分ではなくどこの男であったとしても、椿は体を捧げていたのだろう。

それがいっそう苛立たしく、仁の態度は自然と冷ややかなものになっていった。

『君の意志だと言うのなら、脱いでみるといい』

拒むようならばまだ安心できたのだが。素直に服を脱ぐ椿を見て、父親の指示に逆らう意志はないのだと落胆する。

自分が彼女を拒めば、あの鬼のような父親が援助を乞うために次の男をあてがうだろう。

そしてそれを彼女は拒まず、自らの使命とばかりに全うしようとするに違いない。

仁もまた追い詰められ、抱くよりほかに道を見いだせなかった。

心ない男の玩具にされるくらいなら自分がと、結果、最低な判断を下してしまった。

あどけない笑顔に溢れ輝いていた少女を汚してしまった罪は、決して消えない。


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