身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
金のために売られたのは椿だけではない。姉の菖蒲も同じような境遇にあった。

京蕗家の当主である仁の祖父は、菖蒲の器量を見初め、孫の嫁に迎えようとした。

菖蒲の父親である水無瀬社長は、娘の嫁入りとともに援助を得られたと諸手を挙げて喜び、結果、菖蒲は愛してもない男に買われることとなった。

だが、菖蒲に悲愴感を感じなかったのは、開き直っていたからだろう。

『あなたなんか大嫌いだけれど、隣に並んでいる分には気分がいいわ』

菖蒲はそう言って、仁と外出をしたがった。自尊心を満たすためだけに仁を高級なブティックやジュエリーショップ、レストランに連れ回した。

『見て、道行く女性が私のことを羨ましそうに見てる。快感ね』

『他人の目なんてどうでもいいだろう』

『女心をわかってないわね。女はほかの女より優位に立つことで幸せになれるのよ』

プライドが高く、虚栄心の強い女性だった。隠さない分、清々しくもあったが。

『君はどうしてそうひねくれているんだ』

『そんなひねくれ者を妻にしなきゃならないあなたは可哀想ね』

京蕗家の嫁としては理想的だったが、純粋に慕うには狡猾すぎた。恋愛感情はまったく湧かず、上辺だけの恋人関係を取り繕った。
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