身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
どんな女性を選ぼうとも行き着く先はさして変わらないだろうと、仁はすぐにあきらめがついたのだが。

これまで付き合ってきた女性も、だいたい菖蒲と変わらなかった。いや、菖蒲が一番物怖じせず、ずけずけとものを言う分、ご機嫌をうかがう必要もなく接しやすかった。

だが、体の関係については、仁はギリギリまで菖蒲を拒んだ。

ある夜。仁の自宅へ押しかけてきた菖蒲は、相手の意志も確認せず、問答無用で着物を脱ごうとした。

『やめろ。そういうのは結婚をした後にしてくれ』

『今さらなにを躊躇っているの? おたくの当主は、子どもを産ませるために私を買ったのよ?』

何年と付き合い続けているにもかかわらず、手のひとつも出してこない仁に腹を立てたのだろう。女性としてのプライドが傷ついたのかもしれない。

抱いてやれば終わる話だったが、仁はどうしてもその気にはなれなかった。

どんなに菖蒲の容姿が美しく官能的だったとしても、内面的な魅力が感じられなかったからだ。

『いずれ君を抱くことになろうとも、今じゃない』

幾度か菖蒲に誘われたが、その度に仁はうやむやにした。

菖蒲が三十歳を過ぎるまで結婚しないと決めたのは仁の方で、それまで体を重ねることはおろか、口づけすらしなかった。


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