身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
『ねぇ仁、気づいた? 椿はきっとあなたのことが好きよ?』

勝ち誇った顔で言う菖蒲に、仁は言い返す気力すら湧いてこなかった。

なぜ祖父はこんな女を選んだのかと、恨み言しか出てこない。

『ちゃんと恋人の振りをしてよ? 世界一幸せな恋人同士を演じて、妹を羨ましがらせるんだから』

『……悪趣味だ』

このとき、初めて仁は妻となる女性を自分で選ぶべきだったと後悔した。

仁の目には、菖蒲やこれまで付き合ってきた女性とはまったく異なる輝きを持つ椿が、なにより美しく尊く見えた。

内面の清らかさという物差しで人を測ることも初めてだ。

隣にいるのが椿なら、世界が違って見えるのではないか、まだ経験したことのない感動に出会えるのではないか。

妻になる女性が椿だったならよかったのにと思ったことは、一度や二度ではない。



結婚まで残り半年となったある日、突然菖蒲と連絡がとれなくなった。

菖蒲の父親に尋ねると、療養をしているというのだが、それにしても電話もメールも返事がこないのは不自然だ。

仁以上に不審に思ったのは菖蒲に執着していた祖父の方で、独自に調査を進め、男の家に転がり込んでいることを突き止めた。
< 87 / 258 >

この作品をシェア

pagetop