身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
現在も意思決定の半分は父が担っている。だが、祖父が気まぐれに口を出せば、それが〝正〟となり、逆らうことは許されなかった。

しかし、現在の祖父は脳への血流が減り、痴呆のような症状を引き起こしている。

今後は父が全権を握るつもりらしく、次期当主になるという決意を電話越しに伝えてくれた。

『仁。もう祖父の言いなりにならなくていい。政略結婚などしなくとも、仕事で成果を出してもらえれば充分だと私は思っているよ』

父の話によると、菖蒲は祖父の初恋の女性に似ているそうだ。祖父の執務卓を整理しているとき、その女性の写真を見つけたという。

自身を仁に投影し、菖蒲を初恋の女性に重ね合わせることで、叶わなかった恋を成就させようとしていたのかもしれない――そう推測した父の言葉を聞いて、仁は狂っていると思った。

菖蒲への異常な執着は、祖父の行き場を失った歪んだ愛情だったのだ。

菖蒲と仁からしてみたら、たまったものではない。

『水無瀬家のお嬢さんにこだわる必要もないよ。水無瀬家とはさっさと縁を切って、結婚相手を自由に選びなさい』

『……ああ』

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