身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
父は水無瀬家への執着はまったくないようで、これまでの投資については目をつむってかまわないと漏らしていた。

祖父に夢を見させてあげられたなら、それでもう充分だと。

しかし、縁を切るとなれば今後投資する理由もない。そうすれば椿は別の男のもとに売られるだろう。

――俺が縁を切っただけではなにも解決しない……。

それからというもの、仁は椿の婚約者を演じながら、どうすれば最上の形で彼女を自由にしてあげられるだろうかとずっと考えていた。

まずは彼女の実家が抱える負債の解消だ。

金を渡すだけなら早いが、相応の口実が必要になる。……手切れ金とでも理由をつけるか?

だが、一時的な金が入ったところで、何年凌げるか。今の経営を続けていればいずれは破綻するだろう。経営の指南も必要不可欠だ。

だが、仁が経営に口を出したところで、あの横暴な水無瀬社長が快く従うとも思えない。

なにより、水無瀬社長の価値観をどうにかしなければ、椿はこの先も一生親の駒となり生きていくことになるのだ。

当の椿は自信を失い、初めて会ったときのはつらつとした面影は消え、どこかおどおどしていた。

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