過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
「さっき羽衣ちゃん行ってくれたから、今度は私の番だね」

「はい、よろしくお願いします」

こうやって1日に多くても10回くらい、私たちは会議室の片付けに駆り出される。

特にルールはないのだけど、いつも同じ景色を眺めながら1日中座りっぱなしの私たちは気分転換も兼ねて交互に行くことにしている。

行ってきまーす、と受付を出て行った渚さんを見送りながら、専務は、大我はどんなチョコレートを作ったのかな、とぼんやり考える。


でも全く想像が出来ない。


私は子供の頃からここのチョコレートが大好きだ。

いつの頃からか私がテストで良い点を取った時だとか、運動会のリレーで1番になった時だとか。

受験に合格した時なんかも、お母さんが頑張ったね、って買って来てくれたのがラピスのチョコレートで。

そのパッケージを見た時、あの時大我がくれたチョコレートもラピスのものだったんだと知った。

見た目も宝石みたいにキレイでちょっと高級なここのチョコレートは、私にとっては特別なご褒美チョコレートだった。


だから就活の時期になって自己分析というものを始めた時、真っ先に浮かんだのがここのチョコレートのことで。

あ、私この会社に行きたい、そう思ったんだ。


その時、ウィーン、と自動ドアが開き、2人のお客様がこちらに向かって来る。

そのうちの1人を見て、私は瞠目した。

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