シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「っん」

 一度だけついばむように触れたと思ったら、すぐに舌が入り込んでくる強引なキスになった。

 息がしづらくて、ギュッとギンのジャケットを掴む。


 ギンの息苦しいキスは、やっぱりリンゴの味がする。


 でもこのままここで倒れるわけにはいかない。

 死角になっているとはいえ皆もいるのに。

 わたしは必死に離してくれるようギンの胸を叩いた。


「っはぁ……」

 (なま)めかしい吐息をこぼしながら離れた唇は、そのまま「悪ぃ」と一言謝罪を口にする。

 名残惜し気に腕を離し、彼も皆のいるリビングへと足を踏み入れた。


 キスそのものが恥ずかしくて、彼の色気にもあてられて、ドキドキする心臓と赤くなる顔を落ち着かせるのに必死になる。

 出迎える度にこんなことされてたら身が持ちそうにない。

 そう思うのに、もう出迎えるのはやめようとは思えなかった。


「ギン! 今日はすき焼きだってさ!」

 颯介さんの嬉しそうな声。

 皆はすき焼きの話題に夢中になっていたようで、わたしたちのことは見ていなかったらしい。

 そのことにホッとして、わたしは夕食の準備を始めるためにキッチンへと向かった。
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