むり、とまんない。


ちょっと待ってどういう状況!?

離れていたはずのきょりはいつの間にか。

鼻がぶつかるくらい、吐息が感じられるくらいちかすぎて。


「『胡桃』」


「っ……!」


「『遥ってよんでよ、胡桃』」


声と心の声のダブルパンチに、とたんに心臓が暴れだして。

全身は熱いし、めまいもする。

家を出てから今もそう。

遥のパーソナルスペースが急激にせまくなってる。


「こ、ここ、外だから……っ」


そう言うけれど。

クールな瞳の中には、逃がさないというような獰猛さと強い意志がみえて。


「まだ、よんでくれない?」
『なら……』


視界のはしでマスクを下ろす遥の手が見えた瞬間。


「っ!?」


耳元を掠めるなにかに、全身がぶるりと震える。


「外なんかカンケーない。
俺は胡桃に、世界でただ一人、胡桃だけに遥ってよんでほしい」
『へえ、もしかして耳、よわい?』


「っ!ちっ、ちか……っ」


「うん。
なぁ、よんで?声、聞かせてよ胡桃……」
『顔、真っ赤。かわいい。たまんない」


頭、おかしくなる……っ。


アーティストとしての声をフルに使って、耳がとろけるかと思うほどの低音ボイスが耳に注ぎ込まれて。

頭には、はちみつみたいにどろりと甘い心の声が脳を震わせる。


「わ、わかったら……!
よ、よぶから離れて……!」

「だーめ。
逃げようとしてるだろ。遥って言わなきゃずっとこのまま」
『こんなに慌ててる胡桃はじめてみた。
なに、かわいすぎんだけど』
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