体育祭(こいまつり)
「悠香さ、あの後キスされたの?」
「な、なんで知ってるの? されてないよ!」
「えー、だって見えちゃったんだもん」
「もう、馬に蹴られてしんじゃうよ?」
「木崎さんは何かあった?」
「……」

 何かあったかというと何もない。けれど。

 徳山君の態度。健二の視線。

 私は、返答に困ってしまった。

「もう、いいじゃん、そんなことより、この後の競技、がんばらないと!!」

 悠香が私をかばうように早口に言った。

「だってさあ」
「キスされたいもん」

 二人の言葉に、

「好きじゃない人からされても意味ないじゃん。それとも、その場の雰囲気でキスしちゃうの?」

 悠香が少し冷めた声で言った。

「そっか……それは」
「微妙だよね……」
「でも、言い伝えもあるし、その人が運命の人かも、なんて……」
「は、あほらし~」

 悠香がまた冷めた声で言った。

「ま」
「ごめん。そういうのが気になるお年頃なんです」
「それは分かるけど、好きって感情はデリケートなものでしょ? 興味本位で聞かれたらいい気しないよ。はい、この話題はおしまい。後は、自分の心の中で思ってなさい」

 悠香がお姉さんのように言い切った。それがあまりにも悠香らしくて、私はちょっとだけ笑うことができた。

 なぜか少し心が軽くなって。

「こら、りり、何笑ってるの?」
「あ、木崎さんも思った? 今」
「悠香って……」
「お母さん」
「お姉さん」
「みたいだって」

 あれ、少し言葉が違った。でも。

 四人は一緒に笑う。悠香だけは、

「お母さんって、何よそれ! 酷いじゃない!」

 とわざと怒るように言った。


 悠香って、本当にいい子だな。私は今度は寂しくなってまた笑った。

 寂しい? なぜかは分からなかった。
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