婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 そこへ飲み物と前菜が運ばれてきた。飲み物は三人とも同じだ。

 こういうとき、亜嵐さんのような大人の男性はアルコールを飲まないのだろうか。

 前菜のほかに小さなガラスのお皿にのったクラッカーにクリームチーズのようなものとサーモン、いくらがトッピングしてある。

「いい機会だから教えるよ。今後、困らないように」

 料理に手を出せないでいる私に亜嵐さんが話しかけてくる。

「これはアミューズと言って、料理が出る前の空腹を和らげる意味がある」

「アミューズ……ありがとうございます」

「これから前菜、パスタ、メイン、デザートが出てくる。カトラリーは俺や祖母が使うのをまねるといい。最初はわからなくて当然だから。基本は両端から使っていく」

 私が気兼ねなく食事ができるように配慮を怠らない亜嵐さんは、大人の男性だ。こんなふうに男性と接したことがないから、胸の奥底でなにかふわふわしたものを感じるが、それがなんの感情なのかわからない。

 前菜が運ばれてきて、スタッフが料理の説明を始める。こういうふうに料理の説明をされたことがないから驚く。

 ホワイトアスパラガスのマリネ、マダコのグリル、オクラのフリット、生ハムメロン、とうもろこしのスープなどの説明を、和歌子おばあ様と亜嵐さんは小さくうなずきながら聞いている。

 まるで映画で観たような貴族のディナー風景だ。

 スタッフが礼儀正しく部屋を出ていき、亜嵐さんが「食べよう」と勧める。

 対面に座る亜嵐さんの方がどのナイフとフォークを手にするのかわかりやすいので、彼の手を見てまねる。

 ホワイトアスパラガスのマリネを見よう見まねでひと口大にカットして口に入れると、そのおいしさに目が丸くなる。

 イタリアンなんて友達と行くファミレスしかないものね。きっと和歌子おばあ様や亜嵐さんは、こういった高級レストランがファミレス替わりなんだろうな。

「一葉ちゃん、お口に合うかしら?」

「あ、はいっ! とてもおいしくてびっくりしています」

「やっぱりかわいいわね。亜嵐とのお話、よく考えてね」

 そこまで言うのだから、和歌子おばあ様は本気なんだ。

 私は「……はい」と言うしかなくて、コクッとうなずいた。

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