婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 一緒に玄関へ入ったところで、ポットを手に持ったおばあちゃんとばったり会う。

「おや! 亜嵐さん!」

 祖母の表情がうれしそうに和らぐ。

「おばあ様、ご無沙汰しております」

「どうぞ上がりなさい上がってちょうだい」

「いえ、元気そうなお顔を見せていただくだけで。これを」

 亜嵐さんが手に持っていたショッパーバッグを玄関の上がり口框に置く。

「まあ、こんなにたくさん。いつも気を使わせてしまっているね。ありがとうございます。引き留めるのはやめにしないとね。一葉が早くふたりきりになりたいという顔をしている」

「お、おばあちゃん! そんな顔は……」

 からかった祖母は、楽しそうな笑い声を玄関に響かせた。

 神楽坂を後にして途中にあるスーパーマーケットの駐車場に車を止めて、食材の買い物をする。

 亜嵐さんが買い物かごを持ってくれるのは、似合わないというか、現実味がないというか、違和感がある。

 ふたりで初めて入ったスーパーマーケット。並んで食材を選んでいると、幸せに包まれる。

 結婚したら、こんな風な日常が訪れるのかな……。

 買い物を終わらせて、亜嵐さんの自宅に着いたのは十一時を回っていた。

 夕食はホテルのレストランへ行くので、私が料理をするのは今から。

「亜嵐さん、一時間半はかかってしまうかもしれないんですが……」

「いいよ。仕事をして待ってる」

 彼の手が私の髪に触れ、キッチンを離れていった。

 料理教室で使っているベビーピンクに大きな黄色の花があしらっわれたエプロンをつけて、お米を研ぐところから始めた。

 メニューは定番の肉じゃがときんぴらごぼう、鮭とナスなすの南蛮漬け、豆腐の味噌汁。

 どれもあまれば作り置きおかずになる。

 レジデンスはカウンターキッチンなので、顔を上げると、ソファの下にあるラグに座り、ノートパソコンで仕事をしている亜嵐さんが見られる。

 カジュアルな水色のセーターとジーンズなのに、ノートパソコン画面を見つめる横顔は有能なビジネスマンだ。

 こんなふうに生活できたら素敵だな。あ、早く作らなきゃ。

 我に返り亜嵐さんから視線をはずして、ジャガイモを手にした。

 約束した時間を五分過ぎて料理ができあがった。

 和歌子おばあ様が揃えた食器が素晴らしく、盛った料理がおいしそうに見える。

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