君に逢える日
 ここまで来ておいて、私は臆病だ。

 私が動けないでいたら、彼のほうが私に気付いた。

 目を見開いている。当然の反応だ。

 やっぱり、会いに来なければよかった。

 そう思っていたら、彼が私のところに駆け寄ってきた。そしてその勢いのまま、私に抱きついた。

「よかった……幻じゃない」

 彼の安心した声が、耳元で聞こえる。

 抱きつかれたことに驚いたのはもちろんのことだが、彼が驚いた理由も信じられなかった。

「……あの」

 私が声を出したことで、彼は我に返ったらしい。慌てて私から離れる。

「ごめんなさい、もう会えないと諦めかけていたので、嬉しくて……」

 そう言いながら、私の角の存在と、服装をしっかりと見た。

「どうして、まだ仮装を?」

 彼の疑問が、私の終わりを告げた。もう、逃げられない。

「……これは、仮装ではありません。私は、人間じゃないのです」

 彼の顔を見るのが怖くて、私は視線を落とす。

「なるほど」

 彼は驚くわけでも、逃げるわけでもなく、静かになにかに納得した。

「毎年鬼の仮装をしていたのも、ハロウィンにしか見かけなかったのも、そういう理由だったんですね」

 彼が優しく微笑むから、私は泣かずにはいられなかった。彼を困らせてしまっているとわかっていても、涙が止まらなかった。
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