君に逢える日
 燈の言う通りだった。彼が私のことをどう思ってくれているかは置いておいて、彼は、私のことを受け入れてくれた。

「これは、安心の涙と思ってもいいですか?」

 彼は私の涙に触れ、恐る恐るそんなことを聞いてきた。私は小さく頷く。

「それはつまり、自惚れてもいいという……」

 彼は用心深いのか、私が泣いているというのに、いろいろな確認をしてくる。それがおかしくて、私は笑ってしまった。

「はい、自惚れてください」

 そう返しても、彼の表情は固まっていた。何か、変なことでも言っただろうか。

「笑顔も素敵ですね」

 その言葉に、私はどう反応すればいいのかわからなかった。ただそれ以上顔を見られるのが恥ずかしくて、そっぽを向くことしかできなかった。

「ここはまだ人通りがあります。少し、移動しましょう」

 そして私は、彼に腕を引かれて薄暗い道に入った。

「そうだ、お名前聞いてもいいですか? 僕は青葉です。青葉友希」

 彼の名前。青葉友希。

 何度も脳内で繰り返しながら、私も名乗る。

「椛です」
「椛さん。素敵な名前だ」

 彼が私の名前を呼んだことで、初めて私は自分の名前を好きだと思った。ずっと存在しているだけだったものが、こんなにも価値を感じるものだったなんて、知らなかった。
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