君に逢える日
 燈に何を言われても、彼に会う勇気、本当のことを言う勇気が出てこなかった。

 怖いという思いは消えていない。まだ、本当のことを知られるのは嫌だ。

 だけどそれを超えてしまうくらい、彼が私を探してくれているという事実が嬉しかった。

 もう街は眠っていて、私は何も気にすることなく、いつもの場所に向かっていた。

 そこは、初めて彼を見つけた場所だった。

 どうして彼だったのかわからない。ただ、ずっと頭から離れなくて、限られた日しか会えなくても、彼を見れるだけで幸せな気持ちになれた。

 いつだったか、人間が作り出した物語で知った。

 人間は、こういうときの状態を『恋をしている』と言うらしい。

 初めて知ったときは、意味がわからなかった。でも、彼を知ってから、理解した。

 これが『恋をしている』ということなのだと。私は、彼が好きなのだと。

 彼に会いたい。どうせ最後なら、すべてを話して終わりたい。

 彼のもとに向かいながら、私はそんなことを思った。

 彼は、いつも私が座っている場所に、座っていた。

 彼を見つけて駆け寄りたい気持ちが込み上げてきたけど、私は冷静になってしまった。

 今の私、いつもの格好だ。誤魔化すことなんてできないくらい、鬼の格好をしている。
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