冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 桃子がそう言ったとき、研究室の扉が開き蝶子たちの師である羽柴が顔をのぞかせた。外見は冴えない普通の中年だが、英文学研究者としては世界にも名の知られた存在だ。菩薩のように穏やかな人格者で、蝶子は彼をとても尊敬している。

「おや、みなさんおそろいでしたか」
「おかえりさない、先生」

 蝶子は言って、彼に出す珈琲の準備を始めた。

「真琴と桃ちゃんも飲む?」
「うん! ありがとう、蝶子」

 教授のデスクを囲んで、四人でティータイムとなった。羽柴はまるで緑茶をすするような仕草でコーヒーを飲みながら口を開く。

「実は君たちにアルバイトを頼みたいんだが」

 真琴は桃子と蝶子の顔を順番に見て、言った。

「桃子は卒論につまずいてるし、蝶子は花嫁修業に忙しいし、ここは私かな」
「は、花嫁修業なんてしてないから」

 蝶子は慌てて訂正する。羽柴は顎を撫でながら、続けた。

「わりと大変な仕事だから、ひとりよりはふたりがいいかなと思うんだけど」
「ごめんなさい、私はパスで!」

 桃子がすぐに反応すると、羽柴は蝶子の顔を見る。
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