冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 蝶子が意気込むと、晴臣は不思議そうに小首をかしげる。

「最後? 憧れていた仕事なら、これをきっかけに今後もがんばったらいいじゃないか」

 晴臣の言葉は蝶子にとって意外なもので、ぱちぱちと目を瞬く。

「えっっと、でも来春には結婚するのですし、そうしたら私の仕事は晴臣さんを支えることで」
「結婚したって仕事はできるだろ。もちろん、君が家庭に入りたいのならそれは構わないが」

 結婚後に仕事をするというのは蝶子の頭にはまったくなかったことだった。晴臣は優しい口調で続ける。

「俺との結婚で君がなにかを諦める必要はない。大学に残ってもいいし、仕事を始めてもいい。君の夢を俺は全力で応援するよ」

 蝶子は戸惑いながらも、晴臣に礼を言った。

「考えてみます。私、ちゃんと」

 晴臣は蝶子の世界をどんどん広げてくれる。自分の人生がこんなにも希望と期待に満ちた明るいものだったとは、蝶子はこれまで知りもしなかった。

(翻訳家の夢を……見続けてもいいのかな?)

 大好きな晴臣と結婚し、そのうえで夢を追いかけてもいいだなんて贅沢すぎて怖いくらいだ。

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