冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「言っとくけど、認めてるわけじゃないからね。あの三十通りの訳の課題、俺が初めて師匠に出したものを七十点とすると、蝶子ちゃんのは………三点ってとこかな」
「さ、三十点でなく……三点ですか?」

 沙良は破顔して肩を揺する。

「蝶子ちゃん、意外と図々しいね。吉永沙良大先生が七十点なのに、三十点とは」
「あっ、それはその」

 蝶子は恥ずかしさに身体を小さくする。

(たしかに……先生と比べようだなんて)

 沙良は楽しそうに蝶子の顔をのぞき込むと、言った。

「まぁでも、やる気のない三十点よりやる気ある三点のほうが将来有望なのは間違いないよ」

 彼なりの激励なのだろう、蝶子は小さく「がんばります」とつぶやく。

「もっとも俺みたいな才能の塊にはやる気だけじゃかなわないけどね~」

 毒を混ぜるのも忘れないところは、なんとも彼らしい。
 それからというもの、蝶子は連日のように沙良のオフィスに通い、彼の仕事を手伝った。





 
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