冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
(晴臣さんはどう思ってるのかな。寂しく思っていのが私だけだったら悲しいな)

 もちろん彼にそんなことを聞けるはずもなく……。

 沙良と蝶子は仕事用の大きめデスクに向かい合って座り、互いに黙々とキーボードを叩いていた。なんの脈絡もなく唐突に沙良が口を開く。

「蝶子ちゃんさ~、結婚するってほんと?」

 話のついでに羽柴から聞いたのだと彼はつけ足す。少し驚きはしたが、別に隠す話でもないので蝶子は正直に答える。

「はい、来春に卒業してからの予定ですが」
「まだ若いのに今どき珍しいねぇ」

 彼の反応はごく普通だ。今の時代、卒業後にすぐ結婚というのは、たしかに珍しいことだから。だが、沙良の声にはどこか小馬鹿にするようなニュアンスが含まれている気がして、蝶子は眉根を寄せる。

「旦那さんになる人ってどんな人? どこで知り合ったの?」

 他人に興味のなさそうな沙良がずいぶんとつっこんだ質問をしてくるので蝶子は困惑した。

「えっと、お医者さまで昔からの許嫁だった人です」
「ふぅん」

 彼はキーボードを叩いていた手をぴたりと止めた。探るような、なにかを暴こうとするような視線が蝶子に注がれる。落ち着かない気持ちになって、彼女は視線を泳がせた。だが、沙良はまっすぐに蝶子を見据えて言う。
「蝶子ちゃんって、毒親育ちでしょ」
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