冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 沙良は薄く笑みながら、悪魔のささやきを続ける。

「それに相手の男もさ、医者なんだろ。弱った人間を助けてやりたい、そういう義務感があるんじゃないか。ヒーロー願望と言いかえてもいいかもな」

 蝶子の頬がかっと赤く染まる。きっと鋭く彼をにらんで、きっぱりと言い放つ。

「晴臣さんはそんな人じゃありません。私はともかく彼を悪く言うのはやめてください」

 蝶子が強く出たことに驚いたのか沙良は目をパチパチと何度か瞬かせた。蝶子はやや語気を弱めて言葉を続ける。

「吉永先生のことはとても尊敬しています。でもプライベートは放っておいて……私が幸せになるのはそんなにいけないことなんですか?」

 最後のひと言はもはや沙良に向けたものではなかった。誰に向けたものなにか蝶子自身にもわからない。世間か、あるいは自分自身だろうか。うつむき肩を震わせている蝶子を前にして、沙良はバツが悪そうに頭をかいた。

「いや……悪い、ちょっと言いすぎたな、うん」

 弁解するように沙良は言葉を重ねる。
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