冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
(胸の奥がモヤモヤする)

 最寄り駅である目黒から晴臣のマンションへと歩きながら、蝶子は空を見あげる。あいにくの曇り空で、梅雨が近いことを感じさせるジメジメとした陽気だった。この身体のだるさは気候のせいか、それとも沙良に言われた言葉のせいだろうか。

(違う、わざわざ不安になることを考える必要はない。自分の気持ちを信じるんだ)

 そう気持ちを切り替えるが、足取りは重くなるばかりだった。徒歩五分ほどのマンションまでの道のりがやけに遠く感じ、到着したときには額から嫌な汗が流れていた。

(卒論と先生のお手伝い、少し張りきりすぎたかな?)

 気力は十分だったが、体力は限界を迎えていたのかもしれない。

「うっ」

 ふっとすべてが遠のく感覚と共に、蝶子は膝から崩れ落ちる。

「蝶子っ」

 自分を呼ぶ力強い声と抱き締めてくれる優しい腕、それを最後に蝶子の意識はぷつりととだえた。

 目を覚ました蝶子の視界に飛び込んできたのは、味気ないグレーの壁紙を背景にした晴臣の姿だった。心配そうな表情で彼は蝶子の顔をのぞき込んでいる。

「目が覚めたか、よかった」
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