冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 沙良の言葉に動揺してしまったのも、気持ちが不安定になったのも、すべて妊娠による体調変化のせいだったのかもしれない。そう思うと、さっきまでしこりのように胸につかえていたモヤモヤがすうっと消えていく気がした。お腹の子の存在が蝶子を励まし、その背中を押してくれる。

(この結婚は間違いじゃない、幸せになれるよって、赤ちゃんが言ってくれている気がする)

 夕食後のひととき。ソファに座ってくつろいでいる晴臣が手招きで蝶子を呼ぶ。蝶子は素直に隣に腰をおろした。

「つわりはきつくないか?」
「大丈夫ですよ。疲れたらこまめに休むようにしてますから」

 妊娠が判明してから一週間。晴臣はこれまで以上に過保護になってしまい、蝶子は箸より重いものは持たないというほどに甘やかされた日々を送っている。今日の夕食も晴臣が作ってくれたのだ。彼はあいかわらず多忙ではあるが、以前より宿直の日を減らしたり、蝶子のことをとても気遣ってくれていた。

(むしろ、この生活に慣れてしまったら人間としてダメになっちゃう)

 晴臣に肩を抱き寄せられ、蝶子の頭は自然と彼の肩に落ちる。妊娠すると味覚や嗅覚が変化するとよく聞くが、彼の匂いは変わらず蝶子の気持ちをほっとさせてくれた。
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