冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「私もお母さんになるんですから。そろそろ自立しないと!」

 晴臣に依存しているわけじゃない、あの家から逃れるために彼を好きになったのではない。晴臣に、沙良にも、それを証明したい、そんな気持ちがどこかにあった。

「わかった。けれど、がんばりすぎるな。正直に白状すると、たまには甘えられるのもうれしいんだ」

 晴臣は蝶子の髪を撫で、くすりと笑う。

 観月の家に行く。そう決めたものの、いざとなると呼吸が苦しくなって足が震える。行けない理由を探してしまう自分を蝶子は叱咤した。

(ごちゃごちゃ考えずに今日こそ行くんだ)

 そう決意すると荷物をまとめて、マンションの部屋を出た。今夜、晴臣は宿直で帰ってこないから、遅くなっても大丈夫だ。
 エントランスを出たところに見慣れない人影があった。その人物がゆっくりとこちらを振り返る。喉がひゅっと嫌な音を立て、息苦しさに蝶子は思わず胸を押さえる。

「久しぶりね、蝶子」
「――紀香さん。どうして」

 この場所を知っているのかと聞きたかったが、最後まで言葉にならなかった。だが、彼女は察したようで薄く笑って答える。

「有島病院には顔見知りがたくさんいるもの。ここに住んでいることは知ってたわ」
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