冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 テキパキとキッチンを動き回る蝶子を一瞥して、紀香は大きな声で吐き捨てる。

「いいご身分よね~。英文学の研究なんて、なんの役にも立たないものに高い学費を費やしてさ」

 その言葉はしっかりと蝶子の耳に届き、彼女はかすかに身をすくめた。紀香は専業主婦で、学費を払っているのは父である公平だが……彼が社長を務める観月製薬には、紀香の実家の資本がたっぷりと注ぎこまれているのだ。

「ワガママを聞いてもらって、本当に感謝しています」

 蝶子は紀香のほうを見て答えたが、彼女はもう蝶子を見てはいなかった。七緒がぷぅと頬を膨らませながら紀香に訴える。

「けどさ、いい加減に家政婦を頼もうよ~。大学で家政婦はいないって言ったら、馬鹿にされたもん!」

 紀香はふんと鼻で笑うと、蝶子にも聞こえるようにゆっくりとした口調で言う。

「あら、いるって言えばいいじゃないの。似たようなものが住み込んでいるんだから。浮いた家政婦代は七緒のお小遣いにしてあげてるでしょ。この前だって、ブランドの限定バッグを買ってあげたじゃないの」
「うふふ。あれは、みんなにうらやましがられて気分よかったなぁ~」
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