冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
(私は家政婦さんか)

 蝶子はふっと苦笑を漏らす。はっきりと言葉にされたのは初めてだったが、特段のショックを受けることもない。そう思われていることは、これまでの態度からも十分伝わってきていたからだ。

「あの、明日の昼は外出しても構わないでしょうか」

 ラタトゥイユ用の野菜をナイフで切りながら、蝶子は紀香に問いかける。面倒そうに、紀香は蝶子に目を向ける。言葉はないが、目が『なんの用なのか』と言っている。

「明日は有島さんとの約束の日で……」

 蝶子は機嫌をうかがうように、こわごわと彼女の顔を見る。

(どうかダメだと言われませんように)

 祈るような気持ちで紀香の返事を待つ。
 有島病院の御曹司である晴臣は、六つ年上の蝶子の婚約者だ。デートと呼んでいいものかはわからないが、月に一度か二度の、彼と過ごす時間を蝶子は心待ちにしていた。

「あぁ、例の許嫁?」

 興味なそうに視線をテレビへ戻しながら、紀香は続ける。

「ご勝手に。さっさと結婚してここから出ていってくれるならありがたいわ」

 すかさず七緒が薄笑いを浮かべる。

「お姉ちゃん、暗くてつまんないからなぁ。結婚する前に振られちゃったりして!」
「そうねぇ、ありえるわ」
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